× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 |
「お目覚めですか?」 男が目を覚ますとそう問いかけられた。女性の声だ。寝かされているらしき男の顔をその人物が覗き込んでいた。モンクレール ダウン
「……」 男は答えられない。上手く声が出せない。 「構いませんよ、そのままで」 声をかけた女性が優しくそう告げる。白衣を着ていた。どうやら看護士のようだ。ならばここは病院だろう。 「……」 病院で目が覚めた男は目だけ動かして辺りを窺う。 やはり病室のようだ。男の体に大量のチューブが繋がれていた。男はそのチューブが気になるようだ。一番近いチューブを無意識に触ろうと手を伸ばした。 しかしその腕はいくらも上がらない。細かく震えるだけで全くその場から離れない。 男は苛立ったようにそれでも腕を伸ばそうとした。どうやらそのチューブを払いのけたいようだ。 「長い間眠ってらっしゃいましたからね。上手く体が動かないのは仕方がないですよ」 看護士は男を安心させようとしてか、何処までも優しく微笑んだ。 「あ……」 男は長い葛藤の末、やっと口を開くことができた。だが言葉として形をなしていない。うめきが漏れただけの声だった。 「ご自分のお名前が分かりますか?」 「う……」 男は看護士の質問に答えられない。声が出ないのか。それとも名前が思い出せないのか。それは誰にも分からない。 「ここは病院です。分かりますか?」 「ぐ……」 「あなたは不治の病にかかっていました」 「ああ……」 男が目を見開いた。その言葉に恐怖したのだろう。 男はもう一度手を挙げた。今度は先程より高く手が上がる。男は苛立つようにチューブを掴もうとした。 「ダメですよ。これは病気を治す為のお薬ですからね」 看護士が男の手を優しく遮る。看護士はそのまま男の手を握った。 「治す……」 男がやっと単語らしい言葉を呟いた。じっと己の手を握る看護士の手を見る。 「そうですよ。あなたのご病気を治すんですよ」 「治すだって……」 「何か?」 「だって私は、不治の……」 「ええ。治療不能のご病気でしたんですよね?」 看護士はまだ手を離さない。 「ああ、そうだ…… 現代医学では治せない。諦めて欲しいって言われて……」 「そうです。あの時代の医学では、どうしても治療できませんでした」 「あの時代?」 「覚えてらっしゃいませんか?」 「覚えて?」 「あなたが眠る前に最後に下した決断です」 「私は、確か……」 「そうです。あなたは現代医学の限界に絶望し、全財産を使って生きたまま冷凍睡眠に挑んだのです」 看護士がやっと男の手を離した。 「冷凍睡眠は成功でした。あなたは長い間眠りにつき、そして治療可能な今目覚めたのです」 「えっ? 治療可能? 私の病気が? でも私にはお金が。冷凍睡眠に全財産を……」 男は気力を取り戻し始めたようだ。だがこれからの心配に言葉の端を濁してしまう。 「大丈夫ですよ。今はどんな不治の病でも、国の負担で治すことが義務づけられていますから」 「本当ですか?」 「ええ。国民の健康はこの時代では、国の最優先事項になっていますから」 「それで」 「それで、厳密に言うとあなたの病気はもう治っています」 「――ッ!」 男が驚きに身を起こした。 「落ち着いて下さい。冷凍睡眠から目覚める前に、麻酔による負担を避ける為に治療は同時に行われたのです」 「それじゃ……」 「ええ、もうあなたの不治の病は完治しました」 「やった…… やったんだ……」 男が歓喜に涙を流した。 「ありがとうございます。で、いつ退院できますか?」 「退院ですか?」 「ええ、このチューブはいつとれますか? 病室ばかりだった私は、このチューブが苦手で」 「ダメですよ。それはあなたの病気を治す為の薬のチューブですから」 「えっ? でも病気はもう治ってるんでよね……」 そう言った男の体から不意に力が抜けた。 「ええ。あなたが冷凍睡眠に入る前のご病気は治りました。今は新しい不治の病の治療中です」 「はぁ……」 男が寝床に体を預け直す。何処かその動きは力ない。 「この時代、誰もがどんな不治の病でも治療されます。その結果誰も死ななくなったのです」 「……」 「誰も死なない社会。いえ、死ねない社会。働けない高齢者ばかりが増えていく社会」 「……」 男が目を見開いた。チューブが一際脈打ち、男の動きが急に止まる。 「それはまるで病気を患った病人のような社会でした。それも不治の病です。その病気を治療する為、一定の年齢の方には。そうあなたのように例え冷凍睡眠でも、ご高齢の方には国による安楽死が――」モンクレール PR |