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【2024/04/30 11:59 】 |
不治の病 から転載
「お目覚めですか?」 男が目を覚ますとそう問いかけられた。女性の声だ。寝かされているらしき男の顔をその人物が覗き込んでいた。モンクレール ダウン
「……」
男は答えられない。上手く声が出せない。
「構いませんよ、そのままで」
声をかけた女性が優しくそう告げる。白衣を着ていた。どうやら看護士のようだ。ならばここは病院だろう。
「……」
病院で目が覚めた男は目だけ動かして辺りを窺う。
やはり病室のようだ。男の体に大量のチューブが繋がれていた。男はそのチューブが気になるようだ。一番近いチューブを無意識に触ろうと手を伸ばした。
しかしその腕はいくらも上がらない。細かく震えるだけで全くその場から離れない。
男は苛立ったようにそれでも腕を伸ばそうとした。どうやらそのチューブを払いのけたいようだ。
「長い間眠ってらっしゃいましたからね。上手く体が動かないのは仕方がないですよ」
看護士は男を安心させようとしてか、何処までも優しく微笑んだ。
「あ……」
男は長い葛藤の末、やっと口を開くことができた。だが言葉として形をなしていない。うめきが漏れただけの声だった。
「ご自分のお名前が分かりますか?」
「う……」
男は看護士の質問に答えられない。声が出ないのか。それとも名前が思い出せないのか。それは誰にも分からない。
「ここは病院です。分かりますか?」
「ぐ……」
「あなたは不治の病にかかっていました」
「ああ……」
男が目を見開いた。その言葉に恐怖したのだろう。
男はもう一度手を挙げた。今度は先程より高く手が上がる。男は苛立つようにチューブを掴もうとした。
「ダメですよ。これは病気を治す為のお薬ですからね」
看護士が男の手を優しく遮る。看護士はそのまま男の手を握った。
「治す……」
男がやっと単語らしい言葉を呟いた。じっと己の手を握る看護士の手を見る。
「そうですよ。あなたのご病気を治すんですよ」
「治すだって……」
「何か?」
「だって私は、不治の……」
「ええ。治療不能のご病気でしたんですよね?」
看護士はまだ手を離さない。
「ああ、そうだ…… 現代医学では治せない。諦めて欲しいって言われて……」
「そうです。あの時代の医学では、どうしても治療できませんでした」
「あの時代?」
「覚えてらっしゃいませんか?」
「覚えて?」
「あなたが眠る前に最後に下した決断です」
「私は、確か……」
「そうです。あなたは現代医学の限界に絶望し、全財産を使って生きたまま冷凍睡眠に挑んだのです」
看護士がやっと男の手を離した。
「冷凍睡眠は成功でした。あなたは長い間眠りにつき、そして治療可能な今目覚めたのです」
「えっ? 治療可能? 私の病気が? でも私にはお金が。冷凍睡眠に全財産を……」
男は気力を取り戻し始めたようだ。だがこれからの心配に言葉の端を濁してしまう。
「大丈夫ですよ。今はどんな不治の病でも、国の負担で治すことが義務づけられていますから」
「本当ですか?」
「ええ。国民の健康はこの時代では、国の最優先事項になっていますから」
「それで」
「それで、厳密に言うとあなたの病気はもう治っています」
「――ッ!」
男が驚きに身を起こした。
「落ち着いて下さい。冷凍睡眠から目覚める前に、麻酔による負担を避ける為に治療は同時に行われたのです」
「それじゃ……」
「ええ、もうあなたの不治の病は完治しました」
「やった…… やったんだ……」
男が歓喜に涙を流した。
「ありがとうございます。で、いつ退院できますか?」
「退院ですか?」
「ええ、このチューブはいつとれますか? 病室ばかりだった私は、このチューブが苦手で」
「ダメですよ。それはあなたの病気を治す為の薬のチューブですから」
「えっ? でも病気はもう治ってるんでよね……」
そう言った男の体から不意に力が抜けた。
「ええ。あなたが冷凍睡眠に入る前のご病気は治りました。今は新しい不治の病の治療中です」
「はぁ……」
男が寝床に体を預け直す。何処かその動きは力ない。
「この時代、誰もがどんな不治の病でも治療されます。その結果誰も死ななくなったのです」
「……」
「誰も死なない社会。いえ、死ねない社会。働けない高齢者ばかりが増えていく社会」
「……」
男が目を見開いた。チューブが一際脈打ち、男の動きが急に止まる。
「それはまるで病気を患った病人のような社会でした。それも不治の病です。その病気を治療する為、一定の年齢の方には。そうあなたのように例え冷凍睡眠でも、ご高齢の方には国による安楽死が――」モンクレール
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【2011/01/17 14:05 】 | 小説
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